郁文館夢学園(文京区)

JR常磐線に直通している東京メトロ千代田線の根津駅から根津神社の境内を抜けて、日本医大病院の前に出る。その病院の裏手に隣接しているのが郁文館夢学園。千駄木駅から歩いても10分である。

創立は明治22年。創始者の棚橋家によって代々経営されてきたが、2003年にワタミ創業者の渡邊美樹氏が校長・理事長として着任(私学において校長は教務の責任者、理事長は経営の責任者)。2010年には新校舎が完成し、同時に共学化された。来年は創立130周年を迎えることになる。

■最新の取り組み
「お金科」
2022年に成人年齢が18歳(現在の中2が高3になる時期)に引き下げられる改正民法が成立した。大人への自覚を早期に促す効果はあるが、同時に親権者の同意なしに18歳になるとクレジットカードが作れてしまう。親の知らない間に高校生の息子が借金を背負っていた、ということも起こり得るのだ。そこで、郁文館中学校ではお金のイロハ・お金の怖さを学ぶ「お金科」の授業を新設。

「高校生版MBA~起業塾」
現在中学生の世代の平均寿命は107歳になると見込まれており、就職しても定年という概念がなくなっていくことを踏まえて、人生100年時代の指針を立てる「起業塾」が高校生向けに設置された。1年で理念、2年で財務諸表・事業計画などの実務を学び、3年で投資ファンドと連携して実際に会社を設立してしまう実戦の取り組み。

「大学入試改革への対応」
早稲田大学の政経学部の入試では数学が必須となった。これからは文系・理系を問わず数学は避けて通れないということ。数学力すなわち論理性を見ながら、同時にその受験生のこれまでの活動をまとめたポートフォリオを提出させることで主体性・多様性・協働性の経験を審査する大学入試に変わりつつある。

これは文科省の大学入試改革の先陣を切った取り組みであるが、これが今後全国の高校入試、中学入試へ波及していく(鎌ケ谷エリアも他人事ではない!)。そこで本校では「論究科」「ICT(1人1台のクロムブック所有)」「英語力」を軸に大学入試改革への対応力を高めていく。これらを踏まえて、グローバル化、産業構造の変化、AIの進化といった目まぐるしい社会の動きに対応し、そこで生き抜く力、タフネスさ、ひいては「食える子」を育てたいという考えが本校の根底にある。

国公立大では推薦・AO入試の導入が進み、筑波大では既に定員の5割が推薦・AOによる選抜に切り替わっている。となると、付け焼刃の受験勉強ではなく、思考力・判断力・表現力・主体性・チームワーク・リーダーシップ・個性・多様性といった高度な能力を着実に育まれた人間しかこういった大学への門を叩けなくなる。

■中学校
中学校は「進学」「特進」「GL(グローバル・リーダー)」の3クラスに分かれる。英語力のある生徒は中1からグローバル高校の授業が受けられるようになっている。GLクラスは英語に加えて中国語学習も開始した。中国でのビジネスは英語が主流だが、「英語+中国語」が使いこなせると、企業での採用面接においてもインパクトが抜群であるという。英検は準2級が特進で88%、GLで95%の取得率。中3では海外6週間の留学が組まれ、ニュージーランド5週間+シンガポール1週間となっている。また現地で日本人が群れることのないよう「1人1校」の留学先配置が徹底され、生徒自身はそこで心身ともに大いに鍛えられる。

■高校e特進クラス
生徒1人につき1名のネイティブの先生とオンラインでつながる席上留学を毎日実施。先生はセブ島におり、生徒はクロムブックとヘッドホンで現地の先生と交流する。数名グループだと英語の苦手な生徒はおじけづいて話せなくなってしまうが、「生徒1」対「先生1」なので、逆に話さないと現地の先生と微妙な空気になってしまうため、自ずと勇気を出して英会話が出来るようになる。現地で日本人が群れない、1人1校の海外留学も3週間実施。また0から1をつくる(創造性を養う)プログラミング教育も導入している。

■グローバル高校
郁文館商業から改組されたグローバル高校も今年で25年目を迎えた。グローバル高校では3年間のうち1年間が海外留学必修となり、日本のカリキュラムは残り2年で仕上げることになる。帰国子女はほとんどおらず、国際志向の強い生徒が本校を選んでいる。卒業後は38%が海外の大学へ進学、国内では国公立大が5%、早慶上ICUが12%、GMARCHが19%、他私大が26%となっており、海外進学のインパクトが大きい。ただし、海外の大学といっても卒業後は日系企業への就職が多く、国内での就職も全く支障はない。

■NIE教育
最近の大学のAO面接では、志望動機の質問から入らず、雑談から始まるという。つまり、ここで時事問題への関心と教養が試験官に見抜かれてしまうのだ。ということで、本校では新聞を用いてNewspaper In Educationを実施。真面目なだけでは通用しなくなっている昨今において、思考力と表現力を養うことが必須である(このあたりも鎌ケ谷エリアにとって他人事ではない!)。

■論究科
「母語以上に英語力は高められない!母語が重要!」ということで、6ヶ年の論文指導が行われる。決して英語偏重でないということは本校の特筆すべき点であろう。

■地域活性
谷根千(やねせん~谷中・根津・千駄木)のブランディング。地元の祭りの衰退に対して高校生に何が出来るか。英語対応に遅れている地元商店街への英語看板製作の協力や、実際の研究所と連携して地域活性のためのポートフォリオをまとめること。本校ではプレゼンテーション力を磨く取り組みが活発であるので、暇を持て余す時間は本当になさそうだ。

■高大接続の対応
早稲田大・関西学院大が主導している「eポートフォリオ」を本校は既に導入。やったこと・思ったことをeポートフォリオ(データベース)の中に随時入れて記録していく。すると、これまた付け焼刃の入試ではなく、高校から大学にかけて長期にその生徒が考えてきたこと、してきたことが大学側に筒抜けになってしまい、本当の意味で人物本位・能力本位の大学入試選抜が出来るようになるとのことだ。このeポートフォリオが今後大学入試の主流になるだろう。

■夢教育
なんと言っても本校は渡邊美樹氏の掲げる「夢教育プログラム」が原点であり、全ての発想の土台にそれがある。著名人を招く夢達人ライブ、夢手帳の実践はもはや当たり前すぎて学校案内にすら載らなくなったほど浸透しているし、人間力向上のための夢合宿と、まったく希望のあふれる取り組みが続き、本当に濃い充実した3年/6年間を本校で過ごせることだろう。

将来のために今大人しく学ぶ、というよりもガムシャラに貪欲に、様々なプログラムに取り組んでいく学校という表現の方が相応しいように思う。かつての棚橋家の頃の郁文館とは全く異なるが、だからといってカリキュラム先行で生徒の実態がそれに付いていっていない、ということも全くない。つまりは「考える」組織に今の郁文館はなっているということで、教職員の先生方も、型にはまった仕事ではなく「どうすればよいのだろう」ということを常に試行錯誤しながら考え続けて行動を生み出しているように思える。

コンパクトで地下まで吹き抜けの日光が差し込む校舎もアットホームで、生まれ変わったら一度は本校で学生生活を送ってみたいと私自身思うのである。本郷・根津エリアの落ち着いた文化的な環境も抜群である。

(2018年6月20日訪問)

※過去の訪問記事(2015年4月)
http://kamiojuku.jp/archives/954
↑この過去記事を見ても、現在の郁文館が加速度的に時流に乗り、「時代」に対する最新の解決策を常に考え、見い出し続けていることが分かるだろう。