正負の数の指導法

中学1年の数学といえば、「正負の数」から始まる。
現在小6の生徒で、数名すでに「正負の数」を開始している者がいるが、通常の指導法では「正の数・負の数とは何ぞや」から始まり、「数直線における正負の数の位置づけ」「絶対値」「不等号の使い方」と進んで、やっと「加法」「減法」と計算問題に入ることになる。

しかし神尾塾では、まず正負の数の計算法に慣れてしまって、その後「では正負の数とは何か」「数直線での位置づけは」「不等号は」と理屈を後回しにした方が生徒の混乱は圧倒的に軽減されると考えている。

これはその後の「比例・反比例」も同様で、いきなり「関数とは」「変数とは」「変域とは」と理屈を並べられても生徒は眠くなるだけだろう(実際私も眠ってしまうだろう)。だから神尾塾では比例・反比例の公式をまず覚えてしまって、比例の式・反比例の式をつくることと、グラフを描くことをまず先に習熟させてしまう。理屈はその後で徐々に足していけばよい。

明治から昭和にかけての思想家、柳宗悦(むねよし)が芸術に触れる心構えとして「見テ 知リソ 知リテ ナ 見ソ」と言っている。「まず鑑賞してから知識を得なさい。そして知識を得たら、また鑑賞しなさい」と。これと同じで、「まず問題を解けるようになってしまいなさい。その後で、理屈を知りなさい。理屈を知ったら、また解いてご覧なさい」と置き換えて良いのではないか。

話が逸れてしまったが、「正負の数」の話題に戻る。
「+」「+」→「+」
「-」「-」→「+」
「+」「-」→「-」
「-」「+」→「-」
上記のように、同符号をくっつけたら「+」、異符号をくっつけたら「-」ということを先に覚えさせてしまう。(この段階で「-」と「-」を掛けるんだよ、なんて言うと生徒は混乱するので、「くっつける」という表現で生徒の直感に呼びかけることが大切)

そして、
(-12)-(-6)=-12+6
のようにカッコを外す、という作業を習熟させる。「交換法則」とか「結合法則」といった理屈はしばらく経ってから学べばよいもので、理屈を積み上げる体系的な学習法ではハイレベルの生徒でない限りついていけない。むしろ理屈が面倒になって生徒を数学嫌いにさせてしまう。(公立中1の最初の中間テストで「交換法則」などの言葉を答えさせる出題は愚問である)

次に、「-12」と「+6」をそれぞれ赤ペンで囲み、独立した「項」という概念のみ教える。「項」は明確に認識させないと、-12 +6= -(12+6)だと認識してしまう生徒が現れるためだ。いよいよ「-12」と「+6」のどちらが強いか、と生徒に問う。「強い(勢力が大きい)」という表現を用いることで、ここでまた生徒の直感力に働きかける。なぜかというと、社会人になってからの仕事も、論理的な積み上げだけでなく、感覚で磨いた勘を頼りに進める仕事の場面も出てくるからだ。だから【論理】と【感覚】の訓練をここで同時にしなければならない。

「マイナス軍が12人」「プラス軍が6人」どちらが強いだろうね?と。すると生徒は「マイナス!」と答える。ほう、何人分強い?と尋ねると、「6人分!」と生徒は答える。ここで「マイナスが6人分強いから、-6だよね」と解につながる。

(+9)-(+9)=+9-9
「+9」と「-9」、どちらが強い?プラス軍が9人、マイナス軍が9人、互角で両者打ち合いになるから誰も残らず「0」だよね、と。
ここで、数直線を前提として教えるのではなく、生徒の直感の中で「0」の位置づけ、つまり「+9」と「-9」の中間に「0」が位置するという「中庸」の観念を芽生えさせることができるのだ。理屈の左脳だけでなく直感の右脳も駆使する、大変重要な教育の機会が「正負の数」なのである。

(-12)+(-3)=-12-3
「マイナス軍が12人」「マイナス軍が3人」、これ味方同士だから、合わせて「マイナス軍が15人」となる。これも直感的把握を意識した指導。

カッコを外す際の符号のくっつけ方、
「+」「+」→「+」
「-」「-」→「+」
「+」「-」→「-」
「-」「+」→「-」
については特に疑問を持たない生徒にはこのまま「そういうものだよ」ということで先に進んでしまえばよいが、もし「なぜマイナスとマイナスをくっつけてプラスになるのか」といった様子を生徒が見せたら、

「このラーメンは不味くない。さあ、美味いのか不味いのか?」と日本語で問うてみる。「不味くない」だから、2択で言うなら「美味い」。「不味い=マイナス、ない=マイナス」で「不味くない」は「マイナス×マイナス」で「美味い=プラス」になる。

「不味くない」という日本語自体が、「美味い・美味くない」「よい・よくない」という1次元の直線的な思考ではなく、「美味い・美味くない」を縦のベクトルに、「よい・よくない」を横のベクトルにして、2次元の面積的な思考であることがわかるだろう。

また、
「このラーメンは不味いと思う」であれば「不味い=マイナス」「思う=プラス」であるからマイナス×プラスで「不味いと思う」は「不味い」のマイナスになる。「このラーメンは美味いと思わない」であれば「美味い=プラス」「思わない=マイナス」であるからプラス×マイナスで「美味いと思わない」は「不味い」になり、マイナスということになる。

話戻って、1次元の足し算・引き算になるが、
(-3)+(+7)=(+4)になるように、
自分の中に悪いところが3つあっても、良い行いを7つ出来れば、プラスは4残るんだよ。だから自分のいけないところがあっても、その分きちんと徳をどこかでコツコツ積んでおけば、自分の中にプラスの(徳の)貯金が出来るんだよ。

と、正負の数を使った道徳教育も出来る。
すなわち、ここで数学というものが単なるファンタジーの世界ではなく、自然の法則(人間学)そのものであることが、理解できるようになる。このように「正負の数」の導入は極めて奥の深い重要な単元である。